書籍のご案内
【1】渋谷直人『夕暮れの走者 渋谷直人詩文集』(2021年)
【2】藤井貞和『非戦へ 物語平和論』(2018年)
【3】木村哲也『来者の群像 大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』(2017年)
【4】渋谷直人『遠い声がする 渋谷直人評論集』(2017年)
【1】『夕暮れの走者 渋谷直人詩文集』
著者=渋谷直人
四六判並製 208ページ
定価[本体2,400円+税]
2021年10月15日発行
ISBN978-4-909291-04-2 C0095
前作『遠い声がする 渋谷直人評論集』と対をなす一冊。1956年と62年の未発表原稿、2020年の書き下ろし、その他1960年代から90年代まで書き継がれた詩・小説・散文、全21篇。〈人生は“受難”(パッション)に過ぎないのか〉。実存をかけた全身の問いが、ここにある。
「たしかに、歴史は巨視的に、発展するのでもあろうし、個々人には、その人なりの、公的使命や、たつきの任務もあろう。/しかし、人はそれのみでは生きないし、おのがじしの性癖やら趣味などによっても生きる。つまりは人は実存の生を歩ゆむ。况して宿命のような個性を抱えた者は、それによって生活を宿命づけられる。〔中略〕天皇制国家の権力と、独占資本の利益の結託は明らかだとしても、それへ立ち向う勢力は、決して強力だったとは言えず、むしろ、日々のたつきの途につくことで必死であったろう。私自身もその一員であり、やがて定職についたからとて、それに変わりはなかった。/ただ、おのれ自身の内奥の声におのずからにして從う習癖が身につく、即ち「実存」する生を、人は生きるのだ。/私の場合、それは「詩」のようなものであり、ここに掲げた感慨のようなものだ。/ただし、ひ弱で、傷つきやすい私のそれは、他の人びとの参考たり得るか否かは、分らない。私は私の実存を必死に生きたと、言おう」(本文より)
主な目次
ふさわしからざる巻頭言
Ⅰ
牡丹と春雷
小兄さん
風と蛹と―わが戦後
若き日の断章
幻想の街で
夢魔Ⅰ
夢魔Ⅱ
夢魔Ⅲ―地獄谷
林間幻想
秋の断想・二篇
散文詩・二題
Ⅱ
富士山行
冬山行―奥多摩 川苔山から高水三山へ
Ⅲ
夜叉神峠へ
夕暮れの走者
詩一つ
川に魚を見たり
鳥と魚のいる風景
Ⅳ
家さ 帰ろうよう―人生の終末期を迎えて
著者略歴
1926年生まれ。1945年8月、日本海軍(内地分遣隊)から復員。故郷・山形県米沢市へ帰還した日、父死す。次兄はフィリピン・レイテ島、カンキポット山で戦死。早稲田大学教育学部卒業。東京都豊島区東長崎に住み、詩人・大江満雄の知遇を得る。この頃、文芸誌『存在』『氷河』同人。川崎市立中学校教諭を経歴。『秧鶏』『風嘯』等に詩や小説、評論を発表してきた。著書に『鳥と魚のいる風景』(近代文藝社、1982年)、『大江満雄論―転形期・思想詩人の肖像』(大月書店、2008年)、『遠い声がする―渋谷直人評論集』(編集室水平線、2017年)、編書に『大江満雄集 詩と評論』(共編、思想の科学社、1996年)がある。
【2】『非戦へ 物語平和論』
著者=藤井貞和(ふじい・さだかず)
四六判並製 256ページ
定価[本体1,800円+税]
2018年11月9日発行
ISBN978-4-909291-03-5 C0095
「戦争の原因とその回避とについて、人類史的な深い問いかけへ考え進めるようにと、だれかが用意してくれた戦後70年という、日本歴史のすきまではなかったか。第一次大戦後では、世界的に不戦条約(戦争放棄)が構想されても、日本国はそれをおのれに利するように計らったのであり、日中、太平洋戦争下にあっては、戦争にあけくれこそすれ、『戦争とは、非戦とは』という問いから最も遠い時代としてあった。『戦争とは、非戦とは』を根底から問うことが、もしかしたらば戦争学なのだとすると、戦争時代には戦争学から最も遠いところで、その戦争なるものがあらわに人類をたたきのめしている。とするならば、この70年にこそ『戦争とは、非戦とは』を考察し尽くすのでなければ、もうチャンスはない」(本文より)
文学にかかわろうとしている限りにおいて、文学はいやおうなしに、人間性の根源的な悪の現場に、私たちを連れてゆく。戦争という人類的な悪を辞めさせるためには、その根源的な成立理由を曇りなく明るみに曝すことから始めなければならない。―『湾岸戦争論』『言葉と戦争』『水素よ、炉心露出の詩』と書き綴ってきた著者による、戦争論の完結編。
◉解説=桑原茂夫
主な目次
平和について考えました/平和
メモへメモから
チェーン―9・11のあとから
Ⅰ
戦争から憲法へ
Ⅱ
福島の表現する詩人たち
声、言葉―次代へ
「二〇一一~二〇一四」と明日とのあいだ
Ⅲ
出来事としての時間が不死と対峙する―ブルガリア稿
亡霊の告げ―演劇物語論
新しい文学〈視〉像を求めて―石牟礼道子『苦海浄土』を巡り
『からゆきさん』と『帝国の慰安婦』
Ⅳ
近代と詩と―主題小考
分かってきたことと不明と
著者略歴
1942年東京生まれ。詩人、日本文学研究者。『地名は地面へ帰れ』(詩作品書、永井出版企画)、『源氏物語の始原と現在』(三一書房、のち岩波現代文庫)、『釋迢空』(国文社、のち講談社学術文庫)以来、〈詩〉〈研究〉〈批評〉を経めぐるスタイルをつづける。『物語文学成立史』(東京大学出版会)、『平安物語叙述論』(同)、『源氏物語論』(岩波書店、角川源義賞)が物語三部作。『大切なものを収める家』(思潮社)、『「静かの海」石、その韻き』(思潮社、晚翠賞)、『ことばのつえ、ことばのつえ』(同、藤村記念歴程賞・高見順賞)と、言葉による実験が列なる。詩集はさらに『神の子犬』(書肆山田、現代詩花椿賞・現代詩人賞)、『人間のシンポジウム』(思潮社)へ広がり、『春楡の木』(思潮社、鮎川信夫賞・芸術選奨文部科学大臣賞)、『美しい小弓を持って』(思潮社)に至る。短歌形式について考える『うた―ゆくりなく夏姿するきみは去り』(書肆山田)、『東歌篇―異なる声 独吟千句』(反抗社出版)もある。岩波講座『日本文学史』は「古代」(三冊)、「口承文学Ⅰ/Ⅱ」、「琉球(沖縄)/アイヌ文学」の編集を担当する。『物語理論講義』(東京大学出版会)はシリーズ「リベラル・アーツ」の一冊。『湾岸戦争論』(河出書房新社)、『言葉と戦争』(大月書店、日本詩人クラブ詩界賞)、『人類の詩』(思潮社)、『水素よ、炉心露出の詩』(大月書店)は時代と拮抗する試み。南島論の集成である『甦る詩学』(まろうど社)で伊波普猷賞。近作に『日本語と時間』(岩波新書)、『文法的詩学』(笠間書院)、『文法的詩学その動態』(同)、『構造主義のかなたへ』(同)、『日本文学源流史』(青土社)、『日本文法体系』(ちくま新書)など。東京学芸大学、東京大学、立正大学の各教授を歴任。コロンビア大学で客員教授を務めた(1992〜1993年)。
【3】『来者の群像 大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』
著者=木村哲也(きむら・てつや)
四六判並製 256ページ
定価[本体1,600円+税]
2017年8月31日発行
ISBN978-4-909291-01-1 C0036
1953年、「らい予防法闘争」のさなかに刊行されたハンセン病者の詩のアンソロジー『いのちの芽』。本書をきっかけに始まった詩人・大江満雄(1906−1991)と全国のハンセン病療養所に暮らす人びととの交流は、約40年に及ぶものだった。
「僕たち/片隅の人は片隅の価値しかないという人たちに抵抗しよう/僕らは待望の日のために/片隅を愛し/人間性の香り高い生活を創ってゆこう」(重村一二「待望の詩」)
「教養講座」の立ち上げ、楽団「青い鳥」の結成、「交流の家」建設運動、そして「らい予防法」廃止後の違憲国家賠償訴訟の闘い。彼らの活動は、詩や文学の領域を超え、社会的な実践にまで広がり、やがて歴史を動かす伏流水となった。
病気が全快する時代になってもなお存続した絶対隔離政策のもとで、ともに詩を書き、学び、対話をつづけた大江満雄とハンセン病者たち。彼らのかかわりは、その時代のなかで、どんな意味をもったのか。私たちがそこから受けとることのできるものは何だろうか。
「生きるとは、年をとることじゃない。いのちを燃やすことや」―本書は、大江によって「来るべき者」と呼ばれた詩人たちが語る、知られざる戦後史、文学史、社会運動史である。
主な目次
第一章 『いのちの芽』のあとさき
多磨全生園 山下道輔さん、国本衛さん
第二章 教養講座のころ
栗生楽泉園 谺雄二さん、越一人さん
松丘保養園 福島政美さん
第三章 「交流(むすび)の家」にこめた夢
栗生楽泉園 コンスタンチン・トロチェフさん
第四章 楽団「青い鳥」とともに
長島愛生園 森中正光さん、河田正志さん、
近藤宏一さん
第五章 私を立ち上がらせたもの
邑久光明園 中山秋夫さん、千島染太郎さん
第六章 語られない体験を詩に託して
大島青松園 中石としおさん、塔和子さん
第七章 待望の詩
菊池恵楓園 『炎樹』の詩人たち
第八章 「来者」の声を受けとめる
星塚敬愛園 島比呂志さん
第九章 医学と詩学とのつながり
神山復生病院 藤井俊夫さんの詩、その他
著者略歴
1971年生まれ。神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科博士後期課程修了。博士(歴史民俗資料学)。著書に『「忘れられた日本人」の舞台を旅する―宮本常一の軌跡』(河出書房新社、2006年)、『駐在保健婦の時代 1942-1997』(医学書院、2012年)、編書に『大江満雄集 詩と評論』(共編、思想の科学社、1996年)、『癩者の憲章―大江満雄ハンセン病論集』(大月書店、2008年)がある。現在、「人間学工房」のウェブサイトで「宮本常一伝ノート」を連載中。
【4】『遠い声がする 渋谷直人評論集』
著者=渋谷直人(しぶや・なおと)
四六判並製 232ページ
定価[本体2,000円+税]
2017年9月15日発行
ISBN978-4-909291-02-8 C0095
「黄昏に、物好きにも、落穂拾い。拾えるものとて、少しばかり。なぜか? そうしないでは落ち着かない。陽は急速に西へと傾き、空を薄く染める。
―あれはどこ、それはどんなふうに、と往事、行き過ぎた場所と、その理由や、様子を尋ねても、いっこうに手がかりは思い出せず、漠然と不安は募るばかり。
収穫がないなら、探索をやめればよいものを、ここ数カ月ばかり、埃り臭い書斎を這い回っては、この落穂拾いを続けてきた。
もともと、死後の勲を、などと思ったわけではない。なぜだろう?
齢、九十年。「弱虫、泣き虫、疳の虫」などと自己評価していた私。ここ数年、心不全の病状は、一進一退の膠着状態を続けている。これは実に、いやなものだ。「いつだろう? どんなふうに? ピーポ、ピーポの救急車は何回目なのか? あれはどんなふうに……」と堂々めぐり。果ては「ぽっくりさん、ぽっくりさん……不智不識のうちに、どうぞ……」となるのだ。〔中略〕
だから、私は可能な限りでの逃避を企てる。どこへ? 過去か未来へである。現在は、高齢と病いによって不可なのであるし、過去と未来も動かし得ないとしても、その陰影の甘やかさへの想起や、先取りによってだ。
こうして私は、主として過去の、落穂拾いに専念する。はじめは、両親や、兄たち、そして姉妹たち、しかし先の戦争をくぐってきた家族に遺品は少なく、想像力はすぐに枯渇した。そこで、私の数少ない若書きの資料集め、すなわち、落穂拾いが始まったのだった」(本書「あとがき」より)
主な目次
崩壊感覚について
Ⅰ
思想詩人としての大江満雄
遡行者の孤独―金井直詩集『未了の花』を読む
〈逃走〉のエチカ―暮尾淳試論
Ⅱ
〈精神=生理の変換式〉の探究者―『幼年期』で見る島尾敏雄
憑依者たちの交響世界―比嘉辰夫論・覚え書
島比呂志の修羅
Ⅲ
存在の凹みで―坂上清詩集評
はるかなる生還―『吉川仁詩集』に寄せて
存在することの重みに耐えて―『石黒忠詩集』瞥見
辻五郎とは誰か―詩集『辻五郎の詩』をめぐって
遠い声がする―山本耕太郎詩篇評
著者略歴
1926年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。著書に『鳥と魚のいる風景』(近代文芸社、1982年)、『大江満雄論―転形期・思想詩人の肖像』(大月書店、2008年)、編書に『大江満雄集 詩と評論』(共編、思想の科学社、1996年)がある。