書籍のご案内

【1】『来者の群像 大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』

著者=木村哲也(きむら・てつや)

四六判並製 256ページ

定価[本体1,600円+税]

2017年8月31日発行

ISBN978-4-909291-01-1 C0036


1953年、「らい予防法闘争」のさなかに刊行されたハンセン病者の詩のアンソロジー『いのちの芽』。本書をきっかけに始まった詩人・大江満雄(1906−1991)と全国のハンセン病療養所に暮らす人びととの交流は、約40年に及ぶものだった。

「僕たち/片隅の人は片隅の価値しかないという人たちに抵抗しよう/僕らは待望の日のために/片隅を愛し/人間性の香り高い生活を創ってゆこう」(重村一二「待望の詩」)

「教養講座」の立ち上げ、楽団「青い鳥」の結成、「交流の家」建設運動、そして「らい予防法」廃止後の違憲国家賠償訴訟の闘い。彼らの活動は、詩や文学の領域を超え、社会的な実践にまで広がり、やがて歴史を動かす伏流水となった。

病気が全快する時代になってもなお存続した絶対隔離政策のもとで、ともに詩を書き、学び、対話をつづけた大江満雄とハンセン病者たち。彼らのかかわりは、その時代のなかで、どんな意味をもったのか。私たちがそこから受けとることのできるものは何だろうか。

「生きるとは、年をとることじゃない。いのちを燃やすことや」―本書は、大江によって「来るべき者」と呼ばれた詩人たちが語る、知られざる戦後史、文学史、社会運動史である。


主な目次

第一章 『いのちの芽』のあとさき

 多磨全生園 山下道輔さん、国本衛さん

第二章 教養講座のころ

 栗生楽泉園 谺雄二さん、越一人さん

 松丘保養園 福島政美さん

第三章 「交流(むすび)の家」にこめた夢

 栗生楽泉園 コンスタンチン・トロチェフさん

第四章 楽団「青い鳥」とともに

 長島愛生園 森中正光さん、河田正志さん、

 近藤宏一さん

第五章 私を立ち上がらせたもの

 邑久光明園 中山秋夫さん、千島染太郎さん

第六章 語られない体験を詩に託して

 大島青松園 中石としおさん、塔和子さん

第七章 待望の詩

 菊池恵楓園 『樹炎』の詩人たち

第八章 「来者」の声を受けとめる

 星塚敬愛園 島比呂志さん

第九章 医学と詩学とのつながり

 神山復生病院 藤井俊夫さんの詩、その他


著者略歴

1971年生まれ。神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科博士後期課程修了。博士(歴史民俗資料学)。著書に『「忘れられた日本人」の舞台を旅する―宮本常一の軌跡』(河出書房新社、2006年)『駐在保健婦の時代 1942-1997』(医学書院、2012年)、編書に『大江満雄集 詩と評論』(共編、思想の科学社、1996年)『癩者の憲章―大江満雄ハンセン病論集』(大月書店、2008年)がある。現在、「人間学工房」のウェブサイトで「宮本常一伝ノート」を連載中。


【2】『遠い声がする 渋谷直人評論集』

著者=渋谷直人(しぶや・なおと)

四六判並製 232ページ

定価[本体2,000円+税]

2017年9月15日発行

ISBN978-4-909291-02-8 C0095


「黄昏に、物好きにも、落穂拾い。拾えるものとて、少しばかり。なぜか? そうしないでは落ち着かない。陽は急速に西へと傾き、空を薄く染める。

―あれはどこ、それはどんなふうに、と往事、行き過ぎた場所と、その理由や、様子を尋ねても、いっこうに手がかりは思い出せず、漠然と不安は募るばかり。

収穫がないなら、探索をやめればよいものを、ここ数カ月ばかり、埃り臭い書斎を這い回っては、この落穂拾いを続けてきた。

もともと、死後の勲を、などと思ったわけではない。なぜだろう?

齢、九十年。「弱虫、泣き虫、疳の虫」などと自己評価していた私。ここ数年、心不全の病状は、一進一退の膠着状態を続けている。これは実に、いやなものだ。「いつだろう? どんなふうに? ピーポ、ピーポの救急車は何回目なのか? あれはどんなふうに……」と堂々めぐり。果ては「ぽっくりさん、ぽっくりさん……不智不識のうちに、どうぞ……」となるのだ。〔中略〕

だから、私は可能な限りでの逃避を企てる。どこへ? 過去か未来へである。現在は、高齢と病いによって不可なのであるし、過去と未来も動かし得ないとしても、その陰影の甘やかさへの想起や、先取りによってだ。

こうして私は、主として過去の、落穂拾いに専念する。はじめは、両親や、兄たち、そして姉妹たち、しかし先の戦争をくぐってきた家族に遺品は少なく、想像力はすぐに枯渇した。そこで、私の数少ない若書きの資料集め、すなわち、落穂拾いが始まったのだった」(本書「あとがき」より)


主な目次

崩壊感覚について

思想詩人としての大江満雄

遡行者の孤独―金井直詩集『未了の花』を読む

〈逃走〉のエチカ―暮尾淳試論

〈精神=生理の変換式〉の探究者―『幼年期』で見る島尾敏雄

憑依者たちの交響世界―比嘉辰夫論・覚え書

島比呂志の修羅

存在の凹みで―坂上清詩集評

はるかなる生還―『吉川仁詩集』に寄せて

存在することの重みに耐えて―『石黒忠詩集』瞥見

辻五郎とは誰か―詩集『辻五郎の詩』をめぐって

遠い声がする―山本耕太郎詩篇評


著者略歴

1926年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。著書に『鳥と魚のいる風景』(近代文芸社、1982年)、『大江満雄論―転形期・思想詩人の肖像』(大月書店、2008年)、編書に『大江満雄集 詩と評論』(共編、思想の科学社、1996年)がある。