【寄稿】an-arco-logy collective「菌とウイルスは資本主義を、国家を、社会を、分解する」
『図書新聞』2020年5月23日号(第3448号)に発表された、長崎の悪だくみ集団 an-arco-logy collective による寄稿「菌とウイルスは資本主義を、国家を、社会を、分解するーーCOVID-19ではなく、アナキズム菌に「感染」するしかない」を、以下に掲載する。
転載にあたっては、著作者および『図書新聞』編集部(武久出版)の了承を得た。記して感謝する。また、同紙掲載時に「an-anarcho-logy-collective」とされていた著作者名は、正しくは「an-arco-logy collective」であるとのことなので、これを修正し、漢数字はアラビア数字に変換した。
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(編集室水平線・西浩孝/2020.5.23記)
菌とウイルスは資本主義を、国家を、社会を、分解する
COVID-19ではなく、アナキズム菌に「感染」するしかない
an-arco-logy collective
この世のありとあらゆる国家が、社会が、糞である。これまでもそうだったし、今もそうである。これに変わりはない。しかし、糞は分解されれば肥料になる。肥料は再び私たちの栄養を作り出す。私たちが生存できるようになるや否や、その過程で、再び国家や社会は、資本主義と結託して、生存を脅かす。もうこの連鎖にはほとほと飽きた。では国家や社会が資本主義と結託しないためにはどうするべきかって? 国家も社会も資本主義も未来永劫分解し尽くすしかない。
こんな糞みたいな国家や社会や資本主義を菌やウイルスのように分解していったものたちがいる。アナキストだ。アナキストは国家と社会に対する菌やウイルスである。アナキストにも、〈菌派〉と〈ウイルス派〉がいるだろう。菌は人や動物の細胞といった寄生する先がなくとも条件さえそろえば増殖可能である。ウイルスは宿主がなければ増殖不可能だ。要は、国家や社会があろうがなかろうがアナキストであるという場合と、国家や社会がなければアナキストではないという場合とがある。後者は社会主義やファシズムに陥りがちだ。私たちがお好みなのは前者である。そして私たちが参照する歴史上のアナキストたちも、前者である。ある一定の条件がそろったがゆえに、アナキストとなり、歴史的に生き残っていく。例えば日本の100年前のアナキスト菌は日本という国家や社会を分解していったし、彼ら・彼女らが死してもなお、その菌は増殖している。だから「四十年たって耳にとどく」(鶴見俊輔)し、100年たっても耳にとどくのだ。むろん、日本のみならず、韓国でも蘇生し、東アジアでも蘇生し、世界でも蘇生する。100年前のアナキストである金子文子はこう述べている。「……一切の現象は現象としては滅しても永遠の実在の中に存続するものと私は思っている」(『何が私をこうさせたか』初版1931年)。
東アジアで蘇生された金子文子のアナキスト菌は、映画となって、韓国を中心に増殖した(イ・ジュンイク監督『金子文子と朴烈(パク・ヨル)』2017年)。言うまでもなく、映画は、国家を超えるものであり、菌もウイルスも国境を越える。そしてこの間の韓国映画の水準の高さは、世界を股にかけるものとなっている。
そう、この世界には、菌もウイルスも満ちている。パンを発酵させるのに菌は必要不可欠であるし、日本酒ワインの醸造にも、チーズにも納豆にも、腸内環境には様々な菌が必要不可欠だ。共生していくよりほかないどころか、この世界の根本には、菌やウイルスが土台にある。国家や社会や資本主義は、今や躍起になって、クレンジングにつとめている。国家の本来的な機能は征服にあるのだが、同時にそうした機能とともにあるのが浄化作用である。都市はジェントリファイされ、気づけば街路でタバコすら吸えない状況にある。その一方で、国家と結託した資本主義は、自分たちの都合がいいように振る舞う。つまり、私たち民衆のクレンジングに勤(いそ)しむ一方で、毎日のように大量の二酸化炭素を工場から排出し、自然中で溶解することが不可能な化学製品を垂れ流し続けている。この間のベネチアの運河の水が澄んでいるのをご存じだろうか。インド北部から数十年ぶりにヒマラヤが見えたことをご存じだろうか。大気汚染は、私たちが主体的に起こしているのではない。そうではなくて、資本主義が大気汚染を引き起こしているのだ。だからこの間の新型コロナウイルス(COVID-19)の面目躍如は資本主義に大打撃を与えているのは間違いがない。この点においてのみ、頑張ってほしい。
しかし、である。このウイルスが暴れた原因はなんだろうか。このウイルスによって駆逐されていくものはなんだろうか。
ウイルスが暴れた原因は一つである。資本主義である。この世界で、それぞれの領域ごとに共存していた諸存在があるのにもかかわらず、資本主義が、それぞれの領域をぶっ壊し、人間存在を中心にした均質な領域を作り出そうとしていったことに原因がある。ここでは、一切の陰謀論には耳をかさない(もちろん時には必要なこともあるが)。ひとことで言えば、中国をはじめとした資本主義体制が、人間世界を拡張し、これまで別用にそれぞれの領域で棲み分け可能であった場所を均質化していったことにより、ウイルスが人間世界にまで忍び込んできたのは言うまでもない。そう、自然破壊である。断っておくが、中国は、けっして共産主義などではないし、社会主義などでもない。資本主義国家であり、それもいまだかつてないほど強力なそれである。そうであるから、ウイルスと人の封じ込めも、率先して実行できたのだ(もちろん、国家なので、それが上げてくるデータに信憑性があるのかどうかはわからない)。いずれにせよ、国家体制であるがゆえなのだ。要は民衆がウイルスを招き寄せたのではなく、資本主義と国家が招き寄せたのであり、資本主義と国家こそが封じ込め可能なのである。しかしその一方で、ウイルスは国家を超える。もちろん、資本主義も国家を超える。そのパラレルな存在形態は時に、互いが互いを必要としていくことにもなる。つまり、ウイルスは資本主義によって見出され、資本主義によって拡散し、その資本主義を食い尽くそうとしていく(あるいは遂に、資本主義がウイルスを乗り越えていくかもしれない)。
そう、ウイルスによって駆逐されていくものは資本主義であるのだ。ただ、もう一つある。人間存在である。私たちの大切な友人たちを殺すことにもなるかもしれない。私たち自身を殺すことにもなるかもしれない。マクロな話題ではなく、ここではもう少し、ミクロな話題に移してみよう。
人を殺さないためにはどうすべきか。二つの道がある。一つは、よく言われている通り、〈引きこもる〉ことだ。この点については、世界各地で行われていることでもあり、今さら私たちが述べる理由もないだろう。その一方で、引きこもることが不可能な場合がある。つまり、私たちの大嫌いな国家の対応によるところだ。現時点(2020年4月14日)でブラジル政府は引きこもりを推奨するどころか、率先して外に出て経済を回すように指令を出している。そう、命より経済をとったのだ。命より資本主義を採用したのだ。そして現時点で日本もそれに近い状況である。「自粛要請」なる謎の言語を発明して私たちに偉そうに命令を下してきているのであるが、私たちは休む暇が与えられていない。引きこもる暇が与えられていない。つまり奴らは金を一切出さないのである。働かざるをえないがゆえ、外出をせざるをえない。どうするべきか。あらゆる手段を使って文句を言うしかない。言うことを聞かせるしかない。とにかく、金を引き出すしかない。そのためならば、街路に出てデモも厭わない。お好みであれば、全身黒づくめになって政府に嫌がらせをしてもいいのかもしれない。あるいは、COVID-19にかかった状態で、国家の中枢へと殴り込みにいくしかない(もちろんスマホのYouTubeでCHAGE and ASKAの「YAH YAH YAH」を大音量で流しながらな!)。
あるいは、である。私たちがいる長崎などの田舎では、土地が余っている。ひたすら食料を得るための畑作りに勤(いそ)しんでもいいだろう。長崎の人間のほとんどが釣り経験者である。釣りに行き、食料を確保してもいいだろう。あとは権力に対抗するためには、インフラをこちら側で整備しなければならない。奴らから金を奪いながらも、井戸を掘る、電気を大電力会社から購入しないなど、奴らから遠ざかる戦略が必要だ。ペニュルティエーム(払い退けつつ取り入れること)が必要なのだ。
もう一点、つけ加えるべきことがある。医療体制についてだ。ここも、ペニュルティエーム的な態度が必要だ。医療崩壊とウイルス、どちらが怖いかって? ウイルスに決まってんだろ、馬鹿野郎! とにかく、とっとと、ワクチンなり薬なりを作ってくれ。政府はそこにこそ金を出せ。医療体制は充実させよ。ついでに、全人民に一人当たり百万円ほどのベーシック・インカムを出せ。学費はタダにしろ。あらゆるインフラはタダにせよ。あらゆるニューパブリック・マネジメントを廃棄し、ネオ・リベラリズムを廃棄し、監視社会を廃棄せよ。その一方で、私たちは薬などなくとも生きていける健康を手にできる環境を作る。免疫力が上がりそうな〈喜び〉を手にしていくべきなのだ。そう、国家と社会と資本主義を分解していくこと、それが、私たちの喜びだ。M・フーコーは生権力の機能について、告白をすることで、その告白が権力を編み出していくことになると明らかにした。主体的になることは従属することなのだ。だから医療体制には期待をかけつつ、絶望をするしかない。この間の、大阪では口だけ達者で実は中身が全くない守銭奴野郎を中心に、市内の24か所の保健所を1か所に統合してしまい、検査体制が十分ではなくなってしまった事実がある。これを誰がやっていったのか。目先の利益だけを見たバカどもがいるのだ。ネオリベはもはや成り立たない。インフラなるものが権力であるならば、曲がりなりにも私たちの生を充実させ、税金を絞り取ることが急務なのではないか。税金を搾り取る対象を殺してどうするのだ。敵ながら、本当にバカだとしか思えない。108兆円の事業規模の財政支出がどうのこうの言っているこれまたバカな宰相がいるが、結局、事業規模など、結果論でしかなく、そもそもの財政出動の額ではない。あのバカなドナルド・トランプですら200兆円を実際に財政出動させている。輪をかけてバカなこの国の宰相は17兆円でどうにかなるとでも思っているのか。挙げ句の果てには、憲法改正などをちらつかせている。私たちからすれば、国家の終了を求めているがゆえに、国家を成り立たせている憲法などは、廃憲を求める。だからどうとは言わぬが、それでもなお、基本的人権なるものがなく、存在理由がこの世にないに等しい「自衛隊」が明記されるらしいというのは、愚の骨頂である。国防費なるものを、コロナ対策に使用したらどうか。戦闘機を購入する費用をコロナ対策にでも使用したらどうなのか。何よりも、結構お気に入りだった子が、自衛隊員と結婚(!!)しちゃったので、私たちは、ショックである。自衛隊(員)、許すまじ。
話がそれた。もう一度、本題に戻ろう。とりあえず人間がこのままの勢いで、人間の都合を貫く限り、ウイルス同様、自らの宿主を自らの励みによって汚し、自らを殺すのだろうが、実のところ人間は生きるのが苦しくて、早く死滅してしまいたいのだけど、目前に死が訪れるのは怖いから、遠回しに自らを破滅させたいがゆえの愚行なんじゃないかという気がする。生存することばかり考えているのかと思ったら、無意識的にだろうけど、遠巻きに死滅することを考えていらっしゃる。他の種族をも巻き込んで死んでいこうとするのもまた人間らしい。無差別殺人事件被疑者自殺、みんな寂しい夜にメリージェーンだ。おっと、ということは寂しさが資本主義に拍車をかけるということか!? 〈働かざるもの食うべからず〉なんぞ思うべからず。働かなくても食える道を探す。この混乱の中で、今までの生活が失われてしまう時、なるだけ即座に今まで見てきたものと違うものに思いを寄せて、自分らにはこんな道もあると気づいていきたい。とても重要なことなら、ゲロを吐きながらでも取り戻すしかない。でも、できるならば、このさい叩き落とされた階段は二度と登らずに地べたに生きることができれば、きっと人間社会の奪い合いの連続から少しでも離れて、幸せなんてものにはデコピンしてやり、〈クズども〉として満面の笑みで世界を超えていけるんじゃないか。相当に侵された私たちが、突き落とされる時の苦痛は結構なものかもしれないが、気のせいかもしれない。股下から右上方を覗き込めばそこで阿弥陀が手招きしてる、極楽行くぞ。
いずれにせよ、菌もウイルスも動物同士で感染していく。動物同士は密接になりつつも、それぞれの領域はゆるく区分けされながら共生することができる。しかしながら、資本主義は乱開発やジェントリフィケーション、グローバル化を遂行し、全ての領域を区分けなく均質にしていこうとする。この時に、菌もウイルスも爆発的に増えていく。いうまでもなく、アナキズムは反資本主義である以上、これとセットでもある。だから、資本主義が爆発的に拡大していくと同時に、アナキズムも拡散していく。しかし菌とウイルスは異なる。ウイルスはあくまで、国家・社会・資本主義といった宿主がなければ増殖することは不可能である。もちろん菌もそうではあるが、菌はそれ自身、自律的に生きることができる。菌は糞を分解し、宿主を超えて拡散する。無能な国家、買い占めをするような社会、それらを引き起こしている資本主義、新型コロナウイルスを否定して、引きこもりつつ、あるいは街路や自然に出まくって、差異を重んじ、大切な人たちと共鳴していくこと。COVID-19ではなく、アナキズム菌に感染するしかない。そうすれば、私たちは私たち自身を生きる思想、つまり今ある世界のあり方を分解し、そして肥料を、栄養を生み出していくことになるだろう。
権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する。ゆえに、私たちは増殖する。自粛することなく、絶対的かつアナーキーに増殖する。国家も社会も資本主義も未来永劫分解し尽くすしかない。
【本稿はver.1が2020年4月13日に、その後メンバーによって加筆修正されまくって、4月27日にver.3が完成し、私たちが図書新聞に送りつけた〈怪文書〉である。こんな怪しい文書を掲載してくれる図書新聞に感謝する】
「an-arco-logy collective」はビッグバンによる宇宙誕生から138億年、天の川銀河太陽系の惑星地球で原始生命が登場してのち40億年の果てを生きるE129°53′N32°45′[東経・北緯]長崎の悪だくみ集団。すなわち、国家や近代などというみみっちい単位でものを考えない。私たちの同志であるオーギュスト・ブランキがそうであったように、あるいはエリゼ・ルクリュがそうであったように、天体と革命にしか興味がない。あとは、長崎の近海で釣れたアジを食うことが大好物である(うますぎる)。残った骨は、焼いて食べるか、畑に埋める。土も分解する。地球も分解する。そういうことだ。
[初出:『図書新聞』2020年5月23日号(第3448号) © an-arco-logy collective]
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