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『来者の群像』が第28回高知出版学術賞特別賞を受賞しました

高知に関係する優れた学術図書に贈られる「第28回高知出版学術賞」が2018年3月29日発表され、特別賞に『来者の群像ー大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』が選ばれました。【講評】本書は、現大月町に生まれた大江満雄が戦後ハンセン病療養所の詩人たちと続けた文学的交流の軌跡を、宿毛市出身の著者が現地を訪ね、詩人たちへのインタビューを通して描き出したものである。著者は、忘れられた人々の歴史に光をあてることを課題とする歴史学の研究者。学生時代からハンセン病の歴史に関心を抱いた著者にはすでに大江関係の著作がある。大江によるハンセン病者73人の詩のアンソロジーである『日本ライ・ニュー・エイジ詩集 いのちの芽』(1953)により、著者は同書に寄せた、あるいは大江と交流のあった療養所の生存者を、1996年1月から2017年4月の約20年間に全国7か所の療養所に訪ね、大江との交流を14名からの聞き書きにまとめた。本書から、大江による病者たちの文芸活動の紹介や詩の選評、総合誌を通じての彼らの詩の世間への紹介、教養講座やらい予防法闘争への支援など、ハンセン病者の社会的地位向上を目指す一貫した活動をみることができる。なお、タイトルの「来者」は、「過去に負の存在とされた〈癩者〉を、私たちに未来を啓示する〈来るべき者〉」として、らい者への新たな希望を託した大江の造語という。同時に、著者のインタビューに答える人々の肉声は、「「隔離政策のもとでつねに受け身の患者」という従来の枠組み」(あとがき)を突き崩す力があり、貴重である。1996年3月「らい予防法」が廃止されたが、長く行政や世間の偏見・差別に苦しめられてきたハンセン病者への共感と彼らの地位向上に対し、大江という人物の多大な尽力に光をあて、同時に生存者の肉声を記録した本書の啓蒙的意義は大きい。大江も、病者も「歴史の表舞台から忘れられつつある人びと」である。特別賞にふさわしい著作である。(佐藤恵里「高知出版学術賞を審査して」高知市文化振興事業団発行『文化高知』2018年5月号より)*2018年3月30日付『高知新聞』に受賞記事が掲載

「他者とともにあること 詩人・大江満雄が示した生き方から」(『週刊読書人』2018年3月23日号)

『週刊読書人』2018年3月23日号http://dokushojin.com/article.html?i=3090いま、詩人・大江満雄(一九〇六―一九九一)について知る人はそう多くないだろう。戦前はプロレタリア詩運動の中心で活躍し、治安維持法による二度の検挙ののち獄中転向。戦後は対話的精神に満ちた抒情的思想詩を発表するいっぽうで、全国のハンセン病療養所に暮らす人びとと詩作をとおして交流をつづけた。『来者の群像』は、約四十年に及んだその交流の具体的なありようを証言と作品により辿ったものである。ハンセン病を理由に療養所に隔離された患者のなかには、「自分を救うのは、文学以外はない」と、文芸への情熱を糧に生きる人びとがいた。戦時中の転向問題という、認めがたい自己を抱えこんで生きざるをえなかった大江満雄は、戦後まもなく彼らの詩と出会った。大江とハンセン病者には、共鳴しあう基盤があった。それゆえ大江は、過去に負の存在とされた「癩者」を、私たちに未来を啓示する「来るべき者」と考えた。「ぼくは死んだ言葉たちの中で生きている新しい言葉です/虚飾な、いつわりの言葉たちにとりかこまれ、/癩者の憲章を書きつづっている未来的な少年です」(詩「癩者の憲章」)。患者の部屋をふらりと訪ね、お茶を飲み、話しこんだという大江の足跡は、正式な来園記録などには残らない。『来者の群像』の著者・木村哲也は、大江との交流を記憶する存命の人びとを全国に訪ねてまわった。木村は中学生のとき、大江に会い、強い印象を刻まれた。木村のまなざしが、知られざる交流史を豊かに描き出す。大江をハンセン病者に出会わせたのは、転向の苦悩だった。だが大江の転向とは、そもそもいかなるものだったのか。二〇代のころ出会った大江を師と仰ぎ、彼の死後もその生涯と向き合いつづけてきた渋谷直人による評論集『遠い声がする』所収の「思想詩人としての大江満雄」は、大江の生の資質としての〈他者志向性〉を明らかにする。「他者と共にあろう、他者と苦悩を分かち合おう、そうせずにはおれないという、やみがたい志向性」で大江は唄い、そうすることで主体性を保った。渋谷は、大江の詩から、観念や意匠としての戦争反対を超えた力を見いだす。渋谷の戦後もまた、玉音放送を聞かされて、「兵隊帰りの闇屋」になるという、自己の崩壊感覚を抱えこんで始まった。そんな渋谷だからこそ、金井直、島尾敏雄らの、戦後に実った文学の奥から、時とともに置き去りにされかねない思想をひとつひとつ、拾い上げることができた。「ちいさな草を凝視めてゐると/いつまでも立つてゐて踏む者を見張りたくなる」(大江満雄「草の葉」)。他者とともに生きようとした大江の資質を、かたちは違えど、木村と渋谷も携えているように思う。大江が身をもって示した思想は限りなく深い。その生き方とともに、いずれの著作も私にとって忘れがたい感触を残すものとなった。

『来者の群像』が各媒体で紹介されました

■新聞◎「大江満雄さんへの敬愛のこもった著作」 片岡雅文(高知新聞編集委員) (『高知新聞』2017年10月25日)◎「本書は、永年の取材と検証、静かな思索を経て世に問われている。書かれるべき人によって、書かれるべき時期に書かれた秀作だ」 若松英輔(批評家) (『北海道新聞』2017年11月26日/『西日本新聞』2017年12月10日)◎「知られざる交流の軌跡をたどった」 (『上毛新聞』2017年12月3日)◎「本書では、知られざる詩人たちの手になる多くの優れた詩が、大江の評とともに、紹介されている。ここで取りあげられなかったならば、おそらく一般の目に触れることはなかったに違いない、いずれも選り抜きの、社会性と隠喩表現に富んだ詩ばかりである」 越川芳明(明治大学教授) (『図書新聞』2017年12月9日)◎「著者の行動力と、淡々とした筆づかいの中にふとのぞく詩情に魅せられる一方、ハンセン病者のかつての文芸活動に焦点をあてて、それを歴史に刻んでおかなければいけないという執念にも心打たれた」 越川芳明(明治大学教授) (『週刊読書人』2017年12月15日)◎「詩人たちの交流からハンセン病文学に新たな光を当てる1冊」 川口安子(西日本新聞記者) (『西日本新聞』2017年12月19日)◎「「病」の不条理の内側で、説明でも描写でもない詩をともに書いていた人々の運動を思うと、言葉の可能性、芸術のむき出しの姿を見せられるようでめまいがする」 中村寛(多摩美術大学准教授) (『北國新聞』2018年1月20日/『秋田魁新報』1月21日/『日本海新聞』『大阪日日新聞』1月22日/『新潟日報』1月28日/『河北新報』『茨城新聞』『四國新聞』2月4日/『山陽新聞』2月9日夕刊/『愛媛新聞』2月10日/『福井新聞』『高知新聞』2月11日/『岐阜新聞』2月18日/『山梨日日新聞』2月25日ほか、共同通信社配信)■雑誌◎「大江満雄と詩作を共にしたハンセン病療養所の生存者をめぐる探訪記であるとともに、詩人によって「来るべき者」と呼ばれた人々が語る、知られざる戦後史、文学史、社会運動史」 (『多磨』2017年11月号)◎「大江満雄と詩作を共に行ったハンセン病療養所の生存者をめぐり、その交流や詩作の背景について考察した1冊」 (『保健師ジャーナル』2017年12月号)◎「戦後の社会的に顧みられることの少なかった時期のハンセン病療養所の詩人たちの表現活動に着目し、それが社会的実践へとつながり、のちに「歴史を動かす伏流水」となったことを丹念に跡づけたことは重要な意味を持つ」 廣川和花(専修大学准教授) (『同時代史研究』第10号、2017年12月)◎「邑久光明園の詩人達の歴史が刻まれています」 疋田邦男(ハンセンボランティア「ゆいの会」会員) (『楓』2018年1・2月号)◎「本書は、ハンセン病者の経験がいまだ過ぎ去っていないことを示している。それはまさに、大江が呼んだ「来るべき者」たちの声として、読み手に迫るだろう」 樹本健(中京大学准教授) (『楓』2018年1・2月号)◎「詩人大江満雄とハンセン病療養所の詩人たちの長く深い交流、そこからどれほどの力強くも新しい文学の言葉、思想の言葉、行動する言葉が生まれでたことか」 姜信子(作家) (『みすず』2018年1・2月号)◎「ここには、歴史学の文献資料調査と、民俗学のフィールドワークとの両方に足場を置く著者の力がみごとに発揮されている」 中村寛(多摩美術大学准教授) (『現代詩手帖』2018年7月号)■ウェブ◎「大江は「ハンセン病であることを強調するな。人間として純粋なものをうたえ」と語りました。「エゴを虐殺すると社会愛とか人類愛の精彩がなくなると思う」「人は『病気』をしてこそ人間らしくなる」といった大江のことばの数々は、ほんとうに深い」 (「桂川潤のweb site」2017年10月23日) http://www.asahi-net.or.jp/~pd4j-ktrg/tp171023.html◎「私の好きなタイプの本だ。歴史の表舞台には決して登場しない、けれどもその時代や社会の限界とがっちり向き合った人々の、生きた証が刻まれている」 (「身近な一歩が社会を変える♪」2017年11月18日) http://newmoon555.jugem.jp/?eid=538◎「素晴らしい本」 (「ウラゲツ☆ブログ」2018年1月7日) http://urag.exblog.jp/238179091/